「加藤だし」誕生物語
夫を治さねば...
重い病を患った夫を救うために必死で創り出した“究極のだし”
2003年、軽い気持ちで受けた健康診断で、夫が重度の「高血圧症」(血圧値202/98mmHg)と、「糖尿病」(糖尿病の数値HbAlc8.7%)と診断されました。まさに晴天の霹靂でした。
それまでの私は「夫の喜ぶもの」ばかりを食卓に出し、好きなものを好きなだけ食べてもらう、それが我が家の食事でした。夫は肉とお酒が大好きで、夜は必ずウィスキー。呑み過ぎるとご飯は食べません。野菜もほとんど食べません。そして間食は甘いもの・・・。
振り返ると、そういう食習慣が病気を作っていたのだと思います。
やはり私=料理を作る人が、しっかりと食の大切さを知っておくことが必要だったのです。
人間が本来持っている自然治癒力を高めて病気を治すという考え方を学び、管理栄養士さんから「治療=食生活の改善」と指導を受けた私は、食の中心を動物性たんぱく質から豆腐など植物性たんぱく質へとがらっと変えました。同時に、それまで使っていた市販の顆粒だしをやめ、自分で一からだしをとることにしたのです。
それからおよそ1ヶ月、さまざまな素材の配合を試しては「これでどう?」、「今度はどう?」と夫に聞きながら試行錯誤を繰り返し、ようやくたどり着いたのがここでご紹介している「加藤だし」です。夫に治ってもらいたい・・・その一念で、必死の思いで生まれたレシピですが、ご近所の奥さま方から町内へ、市内へ、そして県内へと口コミで伝わり、やがて全国から講演・調理実習にお呼びいただくようになって、いつしか皆さまから「加藤だし」と呼ばれるようになったのです。
だしのチカラ
めきめき効果が表れて...
さてこうして、結婚以来何十年も続いていた「好きなものを好きなだけ」の食生活が、だしを基本に素材を活かした「一汁三菜」の食生活へと変わりました。「一汁」は野菜たっぷりの味噌汁。「三菜」は豆腐や厚揚げを中心にした煮物や焼き魚。そしておひたしやサラダ、浅漬けなどです。
食生活改善の効果は、早くも1ヶ月目の検診で表れました。体重は500g減というノルマをクリアし、数値も若干下がっていました。3ヶ月目以降は、月に一度の検診の度に数値も体重もぐんぐん減っていきました。そしてとうとう2005(平成17)年の後半、最初の診断から2年もたたずして、90㎏あった体重が64㎏になり、問題だったHbA1c値も正常範囲になったのです。お医者さまからは「患者さんが自暴自棄にならずに頑張れたのは、奥様の力でしたね」とお褒めの言葉をいただきました。嬉しかったですね。
夫が気に入った「加藤だし」を基本にした食事になると、誰に強制されたわけでもないのにあれほど好きだったお酒の量がだんだん少なくなり、煙草の本数も減っていきました。人間は「味噌汁の一杯」が美味しくいただけるとその満足感で自然とお酒や煙草が要らなくなっていくのかもしれません。夫の様子を見ながらつくづく思いました。不思議なことに夫の性格もまた変わっていきました。高血圧症や糖尿病とわかる前の夫はいつも怒っているような口調でしたが、一緒に食生活改善に取り組む中で言葉づかいもやわらかくなり、夫婦の会話も増えました。他人さまのお世話などする人ではなかったのに自治会活動をするようになりました。生き方そのものが変わって来たようで、昔の夫を知る人たちは皆驚いていました。
「だし」で何が変わる?
「だし」で家庭が変わる。「だし」で世界が変わる。
2009(平成21)年のある日、夫は突然、末期の大腸癌と診断され、手術を受けました。それから5年経った2014(平成26)年、担当医からもう検査に来なくて宜しいとのお墨付きをいただけました。癌を乗り越えられたのも、だしが基本の食生活を続けていたからだと思っています。もちろん科学的・医学的根拠があるわけではありませんが、このだしにはやはり何か、人の自然治癒力を高める働きがあるのかもしれません。夫は80歳を越えましたが元気です。もちろん私も元気です。ご縁あって食育調理セミナーを始めて10年になりますが、一度もキャンセルしたことはなく、全国を飛び回っています。
子どもの頃、祖母や母がだしを取っている姿は普通の光景でした。家族関係が希薄になっていると言われて久しい今、食事もファストフード店やコンビニエンスストアで手軽に調達できます。そういう時代だからこそ、心を込めて美味しいだしを取る、その人の家族を思う心がだしを通して家族に伝わり、「美味しいね」の笑顔が家族中に出てくる、そうすると家族が、家庭が、確実に変わります。そして家庭が変わると、世界が変わってきます。「だし」にはそういうチカラ、家庭や世界を変えてしまうエネルギーがある、と私は思います。
「加藤だし」のすすめ
だしとりの基本と加藤だしの特長
base of dashi
昆布、鰹節、鯖節、宗田節、焼あご、煮干し、椎茸・・・。これらを組みあわせた「あわせだし」を一般に「だし」と呼びますが、その素材は地域や料理によって数十種類に及びます。鰹節ひとつみても、薄削り、中削り、厚削り、花削りなどの種類があり、特長と適性が異なります。個々の分量、扱い方、とり方がそこへ加わるのですから、組みあわせはまさに無限です。
その中で私がたどり着いた「加藤だし」は、コクのある深い味わいが特長の基本だしです。これからレシピとビデオをご紹介しますが、あくまで資料と受け取っていただき、本当に習得するためには、各地を訪れて開催している調理実習のセミナーにご参加いただき、実際に目で見て手で触って学んでいただくことをお勧めいたします。
加藤だしの材料
topping material
・だし昆布(利尻産)・・・・・・15g
・鰹厚削り(鹿児島産)・・・100g
・生の水・・・・・・・・・・・3ℓ
※「生の水」とは、加熱殺菌されていない水のことです。水道水ではありません。市販のペットボトルでは「熱を加えず...」などと記載されている場合もあります。(私は飛騨高山の水を使用しています)
加藤だしの作り方
5 steps
・鍋に常温の水を入れ、昆布を約20分浸けておく。
※だし昆布の種類により、厚めのものは時間を延ばします。
・鍋を強火にかける。鍋の底で小さな気泡がフツフツ立ってきたら昆布を取り出す。
※沸騰はさせないでください。昆布は長く煮るとぬめりが出てしまいます。
・湯温40℃~45℃を保ったまま厚削り節100gを一度に入れ、強火にかける。
※ここでも沸騰はさせず、煮立つ寸前までの加熱です。
・表面に細かい泡がいっぱいになったら火を弱め、2分たったら火を止める。
※細かい泡が結合して全体に白い泡となるのが目安です。
・そのまま2分おいたら、かつお節を素早く万能こし器などでこす。
※沈んだかつお節を長く放置したり、こしたかつお節を絞ると、だしの味が悪くなります。
加藤式 食育料理3つの基本
目分量は×。すべてを正確に量りましょう!
cooking scale
必ず調理用計量器、できればデジタル計量器を使い、0.1g単位まで正確に量ってください。「大さじ1」や「小さじ1/2」といった量り方は、実は目分量とさほどかわりません。やめましょう。0.1gの微妙なずれが積もり積もって本来の味を変えてしまうだけでなく、塩分や糖分の過剰摂取につながっていくのです。
写真は、最小計量0.1gの高精度微量モードを備えたタニタ(TANITA)デジタルクッキングスケール KJ-202(参考価格:\3,500)
すべての食材を丁寧に扱いましょう!
respect
私たちが口に入れる肉でも魚でも野菜でも、すべての食材は、もともと命があった生き物です。食べるとは、他の生き物たちの尊い命を頂戴するということなのです。ですから、食材を丁寧に扱うことは命を大切にすること、そしてそれは家族を家庭を、そして自分を大切にすることにつながります。例えば野菜を扱う時、これはどんな畑でどんな人が育て、どんな過程を経てここにあるのだろう、と思いを馳せ、敬意を払って丁寧に扱う。そういう心が野菜に伝わり、より美味しくなってくれるのだと私は信じています。
「まず、お味噌汁を一口どうぞ」と勧めましょう!
at first
昨今やたらと、○○から食べましょう、いえ○○から、などと、食べる順番が決まっているかの如く言われていますが、科学的・医学的な根拠はともかく、それはそれ。「加藤だし」を使った料理では、ぜひ「まず、お味噌汁を一口どうぞ」と自信を持ってお勧めいただければと思います。召し上がる方には、必ずや「だし」を通し、作り手の真心が伝わるはずです。真心をさしあげ、大切な一日の食事を幸せな気持ちで始めていただくこと、それが「作ってお出しする」立場の作り手にとっても大きな喜びとなるでしょう。結果、家庭が家族みんなが、幸せになるのです。